これからのあり方を考える
介護や保育サービスなど私たちの生活にも密接な関わりのある社会福祉法人。しかしその特殊性ゆえに、社会的には分かりにくい存在です。また、昨年から盛んに新聞紙上でも取り上げられ、優遇税制や内部留保、一部の法人にみられる私物化や不正の問題などが指摘されるようになっています。O―ネットの活動施設は社会福祉法人を母体とするだけに、いま何が問題となっているのか、これを機に理解を深めようと、このほど堤修三・前大阪大学大学院教授を講師に講演会を開催。最近の議論と問題点、法人の今後のあり方などについて学びました。参加者は施設関係者、オンブズマン、会員など69名。熱心に話に耳を傾けました。
「純粋性」と「公共性」を前提とした社会福祉事業
全国で2万近くある社会福祉法人。社会福祉事業を行う
ことを目的とする公益法人で、1951年、社会福祉事業法
(現・社会福祉法)によって定められました。
ここでいう社会福祉事業とは慈善事業と措置事業のこと。
慈善事業とは、行政の関与や助成を受けずに自らの負担と創意によって行われる事業のことです。例えば生活困窮者の救済など、戦前から、民間の社会事業家(篤志家)によって取り組まれてきた事業です。一方の措置事業は戦後誕生。憲法25条2項の「公的福祉」の考え方に基づき行政の責任で行う事業で、委託を受けて主に社会福祉法人が実施。とくに救護施設、特養・養護老人ホームの開設は社会福祉法人に限定されています。公の業務を代行するという性格上、行政の細かな指導監督がある一方、施設整備助成、法人税・固定資産税非課税といった税制面での恩恵も設けられました。
「純粋性」の高い慈善事業と、「公共性」を基本とする措置事業―。両者は誕生や性格の異なる「別もの」ですが、社会福祉事業法では両者を混在させたまま列挙。そのため極めて分かりにくい法律となりました。
契約への転換で変容した社会福祉事業
2000年に行われた社会福祉基礎構造改革は、社会福祉事業を措置から契約へと変える大きな契機となりました。そうしたなか社会福祉事業の新たな類型として登場したのが、介護保険や支援費制度といった契約による事業です。利用者の選択に基づいてサービスを決める点で一般のサービス業と大差ない事業と言えます。
契約事業には実質上、純粋性や公共性はないのに、この事業しか行っていない社会福祉法人でも非課税でよいのか…。本来なら基礎構造改革時に社会福祉事業の定義や社会福祉法人の扱いについて再検討されるべきでした。しかし枠組みは手つかずのまま取り残されてしまった。昨年来の政府の会議の議論と混乱は、こうした法律上の整理の不備が背景にあるのです。
迷走を深める社会福祉法人を取り巻く議論
法律上の規定のあり方が何であれ、株式会社・医療法人・NPO法人も介護事業に参入している今、社会福祉法人だけが特例として収益事業から除外され、課税されないのは公平性に欠けるのではないか…。そうした疑問から端を発した最近の議論ですが、迷走している感もあります。
第1に、社会福祉法人には細かな規定や行政監督があり、残余財産の帰属先も厳しく規制されるなど、経営の自由度は低い。こうした点を考慮せず、税制のあり方のみを議論するのは一面的と言えます。
第2に、法人の内部留保の使い道に行政が口をはさむことにも疑問を感じます。
「法人が税制優遇に安住し、巨額の収益を内部留保としてため込んでいる」との批判を受けて、厚労省では「内部留保の使い道を法人に計画的に策定させ、行政が審査・承認する仕組みをつくる」「内部留保は福祉サービスの充実、職員の処遇改善、地域公益活動などに充てる」といった義務化の方向性を示しました。しかし、行政が内部留保の使い道に口をはさむのは社会福祉法第61条の「不当な関与」にあたるのではないでしょうか。また、内部留保を使い切ってしまえば地域公益活動はやめてもよいのでしょうか。地域公益活動という「善行」を義務づけするのもおかしいのでは…。「善行の強制」は道徳観念にそぐわないものであり、実質的には尻抜けになると思います。
地域貢献事業とこれからの社会福祉法人のあり方
社会が大きく変化するなか、介護事業など契約による事業を行っている社会福祉法人が、これまでと同じように税制上の優遇措置をそのまま維持するのは難しいと思います。
その前提を踏まえつつ、「ただし、契約事業による収益を財源に、慈善事業として自らの負担でう“地域貢献事業„をセットで実施している社会福祉法人については、法人の事業全体を公益性のある社会福祉事業とみなし、非課税扱いとする」ことは考えられないでしょうか。例えば医療の場合、済生会などのように、通常の診療事業の他、無料低額診療事業※1を行うことにより、医療保険による収益全体が非課税とされている例もあります。
地域貢献事業のヒントとなるのが大阪府社会福祉協議会社会貢献基金の活動です。04年から取り組みを開始。府内の8割を超える老人福祉施設が参加し、制度のはざまで苦しむ生活困窮者の救済事業を展開しています※2。年間9000万円に上る基金をもとに、支援対象者にコミュニティーソーシャルワーカーが相談にあたる他、10万円までの現物給付にも対応しています。
いずれにしても、社会福祉法における社会福祉事業の再整理を行うとともに、社会福祉法人には存在意義を示す自主的な取り組みを期待したい。税制優遇を死守するための小手先だけの主張や対応では社会の賛同は得られないでしょう。
※1… 低所得者に診療の自己負担分を軽減する取り組み。患者全体の10%以上、自己負担分の10%以上を軽減することが要件とされている。
※2… 参加施設は利用者の定員数に応じて毎年資金を拠出(定員1人あたり5000円)。