~地域包括ケア・新しい総合事業・制度の持続可能性~
大幅な制度見直しが行われた介護保険。介護報酬も改定され、見直された項目の多くが4月から施行されています。保険財政の立て直しが前面に押し出された今回の改定では、保険料を払っていれば介護が必要になったとき相応のサービスを受けられるという保険制度の長所が薄れ、市町村の裁量が増すなど措置時代に後戻りした内容になりました。また抽象的かつ複雑で、市民には一層分かりにくいものになっています。どこに問題があるのかを知ろうと、O―ネットでは3月21日(土)、第46回O―ネットセミナーを開催。介護保険創設時の制度設計に携わった堤修三・元厚労省老健局長を講師に「どう変わる? 介護保険制度~地域包括ケアシステム・新しい総合事業・制度の持続可能性~」を開きました。専門的な内容でしたが、制度の行方に関心のある参加者55名が、他では聞けない講演内容に熱心に耳を傾けました。
措置時代のように市町村の裁量が増大
今回の改定は過去最悪。介護保険制度の良さを損ないかねないものになりました。まず危惧するのは、介護報酬のマイナス改定がはらむ危険性。平均2・27%のマイナスですが、2003年・06年のマイナス改定では介護職員不足が顕著になり、その後国庫負担による処遇改善交付金の支給を余儀なくされた。同じ轍を踏まないかと心配です。
全般的に、市町村の裁量に任される点が増えたことも気になる点です。要介護1・2の〝例外的〟特養入居、補足給付についての資産要件の加味、要支援向けサービスの一部の
市町村事業への移行など、創設当初は後方支援であった市町村の役割が前面に押し出され「市町村の措置」が復活してきた。皆でお金を出し合い高齢社会を支え合おうという介護保険制度の趣旨を後退させ、制度の透明性を縮小させるものと言えます。
地域包括ケアは給付抑制から目をそらすための魔法
厚労省は、今回の見直しは「地域包括ケア」を確立するための第一歩と位置付けています。そして地域包括ケアを「地域の実情に応じて、高齢者が可能な限り、住み慣れた地域で暮らせるよう、医療・介護・介護予防・住まい及び日常生活の支援が包括的に確保される体制」と定義。「介護保険制度を持続可能なものにするために欠かせない取り組み」としています。
地域包括ケアは2012年の制度見直しで打ち出され、医療と介護が一体的に提供できるよう昨年6月に成立した医療介護総合確保法に盛り込まれました。今や「錦の御旗」のように思われています。
確かに、定義にあるように一見すると理想的な取り組みに思えます。しかし内容は抽象的で、具体的な実現手段は明確ではありません。
地域包括ケアは「システム」ではなく「ネットワーク」であり、人と人との関係が基礎となっています。しかし医療介護の専門職や地域関係者等によるネットワークをどのように構築するのか…。「地域ケア会議」がその鍵となるようですが、自由開業制の医療・介護保険制度のもとで、サービス提供のあり方を完全にコントロールするのは困難です。
地域包括ケアのためと称する施策は「遠い向こう岸に、途中までしか届かない短い橋を架けるようなもの」。それほど困難なテーマであるにもかかわらず、なぜこれほどまでに強調されるのか?そこには何よりも給付削減への批判をかわすねらいが潜んでいるように思われます。
極めて複雑な仕組みの「新しい総合事業」
要支援の人に対する訪問介護・通所介護を市町村事業に移行するのも、今回の見直しの大きな変更点です。3年間の移行期間を経て18年度から完全実施される予定です。
上記のサービスは、これまでは介護予防給付として介護保険の中に位置づけられ、全国どこでも同じサービスが受けられました。しかし市町村事業になると、サービスの中身や利用料・利用枠は市町村の独自判断で決まります。保険給付であれば、予算の範囲を超えても給付義務があるのに対し、市町村事業では予算の枠を超えれば打ち切られるのが一般的。当然、不服申立もできません。
介護保険が保険料と保険給付を軸とするものである以上、市町村事業は一種の「付けたり」。それにもかかわらず介護保険で大きな役割を担わせるのは不自然だと思います。
市町村が行う介護関連事業は地域支援事業と呼ばれ、06年に創設されました。当初は要介護認定で非該当になった人を対象とする介護予防事業、包括支援センターが行う相談業務などが地域支援事業の対
象でした。見直しに伴い、介護予防事業は「新しい介護予防・日常生活支援総合事業」(新しい総合事業)となり、そこに要支援向けサービスも組み込まれました。
新しい総合事業で何よりも分かりにくいのは、既存の予防給付によるサービスと、基準が緩和された住民主体のサービスなどが併存していること。対象者の仕分けを要支援認定と基本チェックリストの二本立てにするなどファジーな点も多く、極めて仕組みは複雑。「要支援外し」の批判を逃れるための一時的な手段であることは明らかでしょう。
他の介護予防サービスもいずれは市町村事業へ
財政当局は「制度の持続可能性を求めるならサービス範囲の見直しや効率化が必要」であると強調して今後すべての介護予防サービスや要介護1・2の訪問介護を市町村事業に移行し、重度者のみを介護保険で対応していくと思われます。それだけに「国民負担を軽減して保険料を安く」の路線に乗ってしまうと、介護サービスの対象範囲はますます狭まっていく。保険料の掛け捨てで終わってしまう人が増えると、納付意欲が減退し助け合いの趣旨は薄れてしまいます。介護納付金の総報酬割も検討されてはいますが、保険料を負担しつつ、どのようなサービスを求めるのか、住民・被保険者がしっかり考えていく必要があります。