自己決定の機会増やし、在宅生活との継続性図る
O―ネットでは、2月21日(土)、第45回O―ネットセミナー『高齢者施設の人間模様』を大阪市天王寺区の市立社会福祉センターで開きました。講師は元・フィオーレ南海施設長で、現在、大阪緑ヶ丘事務長の柴尾慶次さん。より良い介護をめざして取り組んできたこと、死への向き合い方などについて話を伺いました。参加者40名が熱心に耳を傾けました。
どんな施設生活を望むのか、他人任せは禁物
特養で仕事をして37年、百人百様の人間模様を見てきました。以前から施設入居を決めるのは大半が家族でしたが、2015年度から特養への入居は原則「要介護3以上」となり、ますます自分で入居を決めるのは困難になる。このことをはっきり認識しておかねばなりません。「誰かに任せておけば何とかなる」と考えるのは甘い。施設に入ったとき、どういう生活を望むのか、早めに周囲の人に伝えたりノ
ートに書いておくことが望まれます。
施設に入る時期は人によって異なりますが、一つの目安は
24時間の見守りが必要になったとき。ただし、入居しても死に目に誰かが立ち会ってくれるとは限らない。私自身、何百人もの死に接してきましたが、死ぬ瞬間に立ち会えたケースは数えるほどしかない。誰にも看取られずに一人旅立つ人は必ずいる。でも「巡回や見守りがあったから発見が早かった」とポジティブに考えるべきでしょう。
「介護が必要になっても施設があるさ」と柔軟に考えられるのは女性たち。男性はいつまでもウジウジしている。施設に入っても自分の座る定位置を決め、風呂やトイレ以外はほとんどそこから動かない。プライドが高く孤立しがちです。女性のように家事や井戸端会議ができ、どこででも柔軟に暮らしていける術を今からでも身に付けておかねばなりません。
選択肢を設け、自己決定の機会促す
私が特養で働き始めた頃、利用者と職員の配置基準は4.1:1、居室は8人部屋でベッド間に間仕切りがないうえ男女混合でした。寝かせきりで巨大褥瘡のある人もいた。そういう点で介護保険制度以降、
施設の生活環境は大きく改善したと言えます。
しかし、介護面では「寝たきり」が車椅子への「座りきり」になっただけのところも見られます。座位保持が可能な時間についてアセスメントもせずに長時間“座らせている„ので拘束帯が必要になる。ゆゆしき問題です。
フィオーレ南海では15年間施設長を務めましたが、自己決定の尊重、自立支援、生活の継続性を重視して介護にあたってきました。とくに自己決定の場づくりには力を入れた。「選択肢のないところに自己決定はない」と考え、いかに利用者の選択肢を増やすかに腐心してきました。
試みの一つとして取り組んだのが多彩なメニューをそろえた選択食の提供です。調理の都合で1週間前に決めるのではなく、利用者がそのときに食べたいものを「その場で選べる」ということを大事にしたいと考えました。それを実現させるためコンペ方式で調理会社を決定。1日の食費基準額である1380円で、地元の食材を使った選択食とソフト食を提供しています。
食事の時間帯にも幅をもたせました。他施設に先駆け、利用者は開始後2時間以内であれば、食べたいときに自由に食事を摂ることができるようにしました。食事時間に幅をもたせると、排泄介助の時間もいっときに集中しなくなり、介助にもスムーズに対応できます。このように施設の日課を押し付けるのではなく個々の生活リズムを尊重する。これまでの在宅生活との継続性を保つためには、そうした日常
への気配りが欠かせません。
「人生の良い幕引き」ができるように
施設にいると「早くお迎えが来ないものか」という利用者の声を聴くことがよくあります。それは何よりも利用者にとって死が身近にあるから。「今の自分の心境を理解し、その話に付き合ってほしい」という気持ちの表われです。それだけに、不必要に死を忌み嫌うことは避けたいもの。個々の利用者にとって「良い人生の幕引き」ができるように努めることも介護の仕事であり、そこに醍醐味があると思っています。