深めたい認知症への理解
避けたい「全部してあげること」
第53回O-ネットセミナーが3月17日ドーンセンター中会議室で開催されました。テーマは「認知症になっても自分らしく暮らすために~考えておきましょう、地域の支援システムや介護サービスのこと~」。講師はO-ネットの理事でもある佐瀨美惠子・関西学院大学非常勤講師でした。いつもと違った中会議室でのセミナーでは意見交換の時もあり和やかな学びの時となりました。参加者は関係者を含め22名でした。
私は保健師であり社会福祉にも関わる者として自分の活動課題である「虐待防止」の視点から、今回の講師を引き受けました。虐待の背景には認知症理解の不足があると考えていますので、機会があるごとに認知症の理解を深める話をしたいとい願っています。自分や家族、友人が認知症になるかもしれないと考えて準備することが大事だと考えています。認知症になって自分で判断したり決定できなくなったりする前に自分がどのように暮らしたいか、どう生きたいか、書き残しておくことを、この際ぜひお勧めしたい。
近年、認知症のかた自身が語られる機会が多くなっています。「複数のことを同時にすることは難しい」「頭を使うと疲れる」と言うのが本人の思いですが、同時進行は難しくても、「段取りを確認して一つずつやっていけばできることはある」と言うことです。対応に工夫があればできます。だから認知症の方に代わってなにもかもしてあげることは良いケアではありません。むしろ人権を侵害することにつながるのです。認知症と診断された人は何も分からなくなったり何もできない人ではありません。ですから今まで通り暮らせることを支える人や街が必要です。そのためのシステム作りは遅々として進んでいませんが、そんななかでも加速的に進められているのが地域包括支援センターです。要となるところですから自分の住む街のどこにあるか知っておきましょう。
「(旧)呆け老人を抱える家族の会」は1980年に発足しました。近年の主な認知症高齢者ケア施策は1990年代後半の認知症対応型共同生活介護から、介護保険制度の開始、「認知症を知り地域をつくる10カ年」「認知症の医療と生活の質を高める緊急プログラム」「認知症施策推進5カ年計画(オレンジプラン)」等を経て2015年「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」に至っています。
2003年には「2015年の高齢者介護」という報告書が出ました。高齢者の尊厳を支えるケアの確立に向けて日常の生活圏域を基本としたサービス体系が目指され地域包括支援センター設立となるのです。またグループホーム・小規模多機能サービス・施設機能の地域展開・ユニットケアの普及につながっています。
小規模な居住空間、家庭的な雰囲気、なじみの人間関係、住み慣れた地域での生活の継続が認知症ケアの基本とされています。施設も含めて、最期に手助けしてもらうところはどこにするのか、自分で調べて、自分で決める、主体的であることが望まれます。
住み慣れた街での生活の継続をめざして市民参加の取り組みも
団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に進められるのが、地域包括ケアシステム構築の実現です。このシステムはおおむね30分以内に必要なサービスが提供される日常生活圏域(具体的には、中学校区)を単位として想定されています。標準的な認知ケアパスの概念やかかりつけ医・認知症疾患医療センター・認知症初期集中支援チームの相互関係などが示されています。
普段から、かかりつけ医を決め、信頼関係を築いておくことが大事です。地域の認知症のサポート医との連携や認知症医療疾患センターでの確定診断が可能になります。結果による治療や投薬は、かかりつけ医にしてもらえるなどのシステムが進みます。
認知症初期集中支援チームの構想は、これから各自治体で具体的な取り組みが始まると思います。診断で認知症と分かっても誰が支援してくれるのか不明な空白期間の不安が解消されることになります。
2017年は介護保険の事業計画が見直される3年ごとの時期でもあります。
これから展開される新オレンジプランとはどのようなものか、その基本的な考え方は認知症の人の意志が尊重され住み慣れた地域の良い環境で自分らしく、暮らせる社会の実現を目指すということです。認知症の理解を深めるための啓発活動、容態に応じた適切な医療・介護の提供、若年性認知症施策の強化、認知症の人の介護者への支援など7本の柱が立てられています。
さて、認知症になったらどんなサービスを受けることができるか、通うか、泊まるか、通ったり泊まったりするか、暮らすか、などのカテゴリーで選ぶことになるでしょう。小規模多機能のように通ったり泊まったり、訪問してもらったりできるものもあります。暮らすためには、特養やグループホーム、有料老人ホーム、サ高住を選ぶことになるでしょう。自宅も含めて介護を受けながら最期まで暮らせるか、確認が必要です。ホームホスピスは地域で最期を迎える新しい試みですが、まだ少数です。認知症カフェは認知症の人や家族が安心して集えるところです。各地で市民の参加した取り組みが進んでいます。
施設を利用するためには、調べる、聞く・相談する、体験してみることが大切です。また、見学では利用者の表情、職員の対応、清潔感、食事を楽しむ工夫など見ておきたいことがたくさんあります。
認知症の人への具体的ケアは思いを理解し、望む支援を、本人のペースに合わせて、待つ、見守ることが大事です。できることを保証し、できない部分をサポートする、安心感のあることばや態度で接する、表情やしぐさからニーズをよみとる、なども大切です。(要約 川上正子)