もっと知ろう、成年後見制度
「措置」から「契約」へと新しい理念で介護保険制度が誕生した時、同時期に制定されたのが「成年後見制度」です。判断能力が低下する高齢期に備えて、この制度をもっと知ろうと、2月27日ドーンセンターにおいて第49回O-ネットセミナーを開催しました。行政書士による「コスモス成年後見サポートセンター」(大阪府支部)と連携した今回のセミナーでは、講演に先立ち、同センターの皆さんによる法定後見と任意後見の寸劇が披露され、参加者も楽しみながら制度の大枠を理解することができました。講演では行政書士の栗山明さんが制度の現状と課題や今後の動きを分かりやすく説明。参加者は30名、通常より少ないのが残念でした。
不備を見直し、利用しやすい制度にすることが課題
行政書士 栗山 明さん
家の財産を守るためにあった禁治産制度にかわり、認知症や知的障害・精神障害などで判断能力が不十分な人たちを保護・支援するために制定されたのが「成年後見制度」です。その理念は①自己決定の尊重②今ある能力の活用③ノーマライゼーションであり、本人の生活や財産を守ることを目的としています。
大別すると「法定後見」と「任意後見」に分けられ、法定後見には被後見人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」に分かれます。
法定後見の利用は家庭裁判所に申し立てすることから始まります。申し立てができる人は4親等内の親族に限られます。身寄りのない人などは市町村長が行います。申し立てを受けて家庭判所は適任である人を選任します。申立人は子が最も多く、次に市区町村長、兄弟姉妹の順です。
利用が伸びない原因の一つに申立人が4親等内の親族に限られていることがあります。ドイツの「世話法」では通報制度があって本人に必要だと気づく身近な人が申立できることになっていますが日本にはその制度はありません。
一方の任意後見では、本人の判断能力が十分あるうちに、自分が衰えた時、自分に代わって財産管理や契約をしてくれる信頼のできる人を自分で選んで任意後見人としておくことができます。任意後見人は本人に後見が必要になったとき家庭裁判所に申し立て、裁判所が任意後見監督人を決め、その時点から契約に従って任意後見人として働きます。この制度を利用するためには後見人と公正証書で任意後見人契約を結ぶ必要があります。
現在、成年後見制度の利用者は18万人超。介護保険に比べると普及はまだまだです。その理由として、制度への認知度不足に加え、弁護士・社会福祉士などの専門職後見人の担い手不足も挙げられます。
この担い手不足を補うため、自治体の中には事情の分かる近隣の人のためにボランティアで対応する市民後見人を養成しているところもあります。
成年後見制度の利用には費用が伴います。本人負担です。
法定後見の場合、選任時は3万円程度、鑑定が必要な場合は10万円位になります。また、専門家に依頼した場合は別途事務所によって異なる報酬が必要です。選任以降の報酬は、個々の事情、事務量や財産の額を考慮して、家庭裁判所が報酬額を決めます。依頼人と専門家の間で決めるのではありません。
任意後見人の場合は、契約書作成時に3~6万円、専門家に依頼すると別途、費用が必要です。契約発効以降の報酬は当事者の契約によって決まります。
後見人に選任されている人は最多が司法書士、次いで弁護士や子です。最近は不動産や財産管理に強い専門家が後見人になる例が増えています。
後見人になるとすべての法律行為を本人に代わってすることになるため、横領などのトラブルも発生しています。
制度をもっと利用しやすいものにするため法の見直しも検討されています(成年後見制度利用促進法案)。2013年に被後見人の選挙権が認められましたが、ほかにも法定後見では権利制限があるため、その見直しが検討されています。また、後見人には財産管理と身上監護(自分らしく生きることへの配慮・対応)が求められますが、現在は緊急時の医療対応への同意や葬儀は後見人の役割には入っていません。そうしたことへの見直しや、任意後見の積極的な活用を促すことがこれからの課題です。