2月24日に開催した第56回O―ネットセミナー『介護施設選び私の場合』―。さまざまな介護施設・住宅の特徴を櫛田キヌエ・消費生活アドバイザーが説明するとともに、家族あるいは自らの入居を決断した3名が決め手となったことなど体験を語りました。開催1週間前に読売新聞で紹介されたこともあって申し込みが殺到。当日の参加者は関係者を含め93名になりました。国の施策は在宅サービス重視で進められていますが、少子高齢社会のなか「最期まで在宅は難しい。施設入居も考えておかねば」と感じている人が多いことを痛感しました。
日義母が特養に入居 「ベスト」ではなくとも「ベター」な選択を模索
夫の両親とは離れて暮らしています。3年前に母が骨折。退院後は要介護4ながらもデイサービスを利用し父の助けのもと在宅生活を続けていました。しかし1年前に再び骨折して入院。母は退院後自宅に帰ることを望みましたが、父の介護疲れは相当なものでした。そのため老健でリハビリに励み、在宅復帰をめざそうということになりました。しかし母の常用していた薬が老健では適用できなかったため断念。特養を選択することになりました。
特養選びで重視したのは、第1に「自宅に近い」こと。父が毎日でも母に会いに行けるからです。第2に「リハビリ」と「個室」という母の要望。個別機能訓練加算を取っていて一定のリハビリにも対応してもらえること、ユニット型の個室で他人に気兼ねなく暮らせることは、重要な要件でした。その他、「継続的な治療と介護をしてもらえる」「利用料は母の年金で賄える」「施設の雰囲気や職員の利用者への関わり方がよい」など総合的に判断して入居施設を決めました。
とはいえ嫁の立場だけに、よかれと思った提案でもこじれることがあるため、あくまでも両親の話し合いと決断を待つことを肝に銘じながら進めました。オンブズマン活動を通して施設の様子がわかり、高齢者の方々の気持ちに触れてきたことも奏功しました。
母の心情を思うと果たしてこれでよかったのかと思うこともあります。しかし在宅介護を続ければ共倒れも起こり得ます。特養入居後、父が自分の生活を取り戻してほっとしている姿や、母の穏やかな表情を見ると救われます。「ベストではなくともベターな選択」を今後も考えていきます。
自身が介護付有料老人ホームに入居 何物にも代えがたい安心感がある
子どもがいない私たち夫婦の場合、今後のことを考え、介護施設への入居を10年ほど前から検討し始めました。しかしなかなか決め手がなく、数年が経過していきました。
3年前、要介護となった従兄が暮らす有料老人ホームへお見舞いに。そのホームが風光明媚な場所にあり、居室も夫婦で暮らせる広さがあったため入居を決めました。「癒される風景」「ゆったりした共用スペース」「予約なしで利用できる食事」「元気な人が8割」という点から、元気なうちに入居するには好条件だと考えました。体力があるうちに自宅を整理して引越しできてよかったと思っています。
暮らしてみて感じるのは「何物にも代えがたい安心感がある」こと。入居後、骨折したりインフルエンザに罹ったりしましたが、コールすれば職員が駆けつけてくれるので心強く思いました。
気になるのは要介護になったとき。職員不足のなか、介護を受けながらも、自分らしく暮らせるか…。「すべて自分の希望通りに」と願うのではなく、課題を職員さんと一緒に考えていくことから、まずはよりよい人間関係をつくっていきたいと感じています。
有料老人ホームの入居にあたって入居時期や長期的な経済計画の検討はもちろん、「入居率の低いところは避ける」「体験入居で入居者の様子・自由度などを知る」「契約書の他、重要事項説明書をよく読む」ことも大切。苦情相談にも対応してくれるので有料老人ホーム協会の加盟施設か否かも選択の目安になります。
入居後は、より良い人間関係を維持するために、節度ある距離感が不可欠だと感じています。関係性がもつれると居心地が悪くなることもあるからです。
自身がサ高住に入居 オンブズマン活動をきっかけに老後の暮らしをを熟慮
若い頃から東京・大阪でずっと仕事を続けてきました。阪神大震災の少し前から住み始めた阿倍野のマンションで今後も暮らすつもりだったので60歳のときリフォームもしました。しかし9年前に始めたオンブズマン活動で介護施設を訪問するようになってから「介護を受ける」「施設で暮らす」という現実を目の当たりにして、老後の住まいや暮らし方について、より真剣に考えるようになりました。
有料老人ホームを見学して入居希望施設も決めました。「100歳くらいまで暮らすことを考えて」との助言で「長く生きると経済的に難しい」とそのホームへの入居は断念しました。
サ高住については、5年前、新聞社の読者参加の取材に応募し見学したことがきっかけで知りました。賃貸住宅と変わらない自由度の高さ、安否確認と生活相談が付いている安心感、少し狭いけれど自炊可能な台所が魅力でした。
3年前、見学した系列のサ高住が大阪市内に建設されることを知りました。「経済的に余裕をもって暮らせる」「最寄駅まで徒歩5分と近く、スーパー・病院なども周辺にあって便利」「緑に囲まれた落ち着いた環境」といった点が気に入り、入居を決めました。長年マンション暮らしだったので最後は緑と土のあるところに住みたいと考えていましたが、そんな思いも叶いました。
10年前に尊厳死協会(※)に入会。保証人は姪に頼みました。もし姪が私より早く他界するようなことになれば、生前契約受託機関に任せることにしています。お世話になる人に少し遺し、最期は差引ゼロで終わりたいと願っています
※終末期から葬儀・その後の残務整理などを、生前の本人契約と意思に基づいて執り行う機関。NPO法人などが担っている。契約内容を担保する法システムの整備等が課題。