1月28日(土)、O-ネットでは「2016年度施設内虐待を防ぐための職員研修」を、ドーンセンターのパフォーマンススペースで開催しました。研修プログラムは、桑野里美・社会保険労務士によるアンガ―マネジメントのワークショップ、デイサービスはくあいと藤井寺特別養護老人ホームからの実践報告、松宮良典弁護士による講義「高齢者虐待と不適切ケア」。特養・有料老人ホームなど介護現場から75名が参加しました。ここでは藤井寺特別養護老人ホームの実践報告を紹介します。
褥瘡ゼロとユマニチュードによる認知症ケアを実践
藤井寺特別養護老人ホーム 介護主任 山口和香奈さん
藤井寺特別養護老人ホームでは「褥瘡をつくることは虐待である」と考え、こまめな体位変換・補正・タッピングなどに努め、29年間「褥瘡ゼロ」を続けています。
「褥瘡は利用者の心身に苦痛を伴います。身体を傷つけ痛みを与えることは介護従事者としてあるまじき行為。ショートステイ利用者のひどい褥瘡を2か月で完治させた実績もあります」と山口さんは話します。
同施設では、職員教育の充実を図るため、ケア技法としてユマニチュードも2015年度から導入を始めました。ユマニチュードとはフランス生まれの新しい認知症ケアの手法。2011年からわが国でも紹介されるようになりました。「見つめる」「話しかける」「触れる」「立つ」という、4つの柱を基本とするコミュニケーション技法です。
とくに大事なのが「見つめる」。高齢者は視界が狭くなるため、その人の視界に入るように目線を合わせて正面から、しっかりと相手の瞳を見つめます。「こうすることによって介護職員の存在を認識してもらえます」。視界に入りにくい後ろから声をかけたりするのは禁物です。
「話しかける」は、介護職員自らが笑顔でやさしく「前向きな言葉」で対応すること。
たとえば「お元気ですか、お会いできてうれしいです」「また会いたいですね」など「“あなたのことを大切に思っています”といったメッセージを伝えることです」
会話が難しい利用者に対しても積極的に話しかけ、ポジティブな言葉がけをするよう努めます。そうすることで着脱・口腔・排泄などさまざまな介助の過程において「作業」ではなく「心のこもったケア」にしていくことができます。
ユマニチュードでは「触れる」ことも推奨しています。「手のひらに全体に一定の圧をかけ、やさしく包み込むようにすることでぬくもりが伝わり、安心感をもってもらえます。無言ではなく優しく声をかけながら触れることが大切です」
同施設では、ユマニチュードを使った接し方とそうでない接し方では利用者がどのように違うかをビデオに撮影。正面から目線を合わせてはなしかけると会話がかみ合いやすくなり、トイレへスムーズに誘導できた利用者のケースを紹介しました。
「当該利用者は要介護5のアルツハイマー型認知症。落ち着きがなく、介助への不安も強い。いったん拒否すると介助できないことも多かったが、この技法を使って正面から目線を合わせて声かけすると、驚いて不穏になることも減少し、笑顔で職員と向かうことが増えるようになりました」
この技法を活用するようになってから職員の意識も変化。「決まりきった声かけしかしていなかったが、利用者の表情や反応を見て、どのように声かけしようかと考えるようになった」「拒否されても無理と思わずに、どのように対応しようか、何が良くなかったかを考えるようになった」「正面から目線を合わせて対応することが習慣づいた」などの声があるそうです。
全般的に、この技法を導入して、「利用者は情緒が安定し穏やかな生活の維持、不穏・徘徊など周辺症状の軽減を図ることができるようになった。
職員は利用者とよりコミュニケーションができるようになり、介護負担の軽減にもつながっている」と山口さん。
「ユマニチュードの技法を使いながら利用者に対応することが虐待防止にもつながっている」。最後にこう結びました。