経験2年目3年目の人のための介護職員研修
医療知識と認知症ケアを学ぶ
10月21日(金)、ドーンセンターで介護職員研修「自信をもって仕事をするために」を日本社会福祉弘済会の助成を受けて開催しました。特養・介護付き有料老人ホームなどで働く62名が参加。医療知識と認知症ケアを学ぶとともに、グループディスカッションで個々の感想や思いを出し合いました。
介護職員も2~3年目になると自分で判断し対応しなければならないことが増えてきます。この研修では、難しいけれど介護職にとって重要な「医療知識」と「認知症ケア」に焦点を絞って学習。学びを通して、よりよいケアへとつながる視点を培いました。また、介護の仕事の魅力と奥深さを改めて認識し、新たな一歩へと歩み出す機会にもつなげました。
午前中は「介護職が知っておきたい医療知識と観察のポイント」をテーマに、山内恵美特別養護老人ホーム白寿苑課長が講義。看護師としての経験を踏まえ、高齢者に多いさまざまな病気と観察のポイントを伺いました。
バイタルサインから分かること、看取り期の身体的変化とケア、たんの色・粘り気・臭いが示すもの、誤嚥、脳梗塞・糖尿病・腎不全など、広範囲でしたが介護に役立つ医療知識を学びました。
「介護職に求められるのは、病気を診断することではない。ケアを通して普段から利用者の様子を観察し、“いつもとは違う”状況に早く気づくこと。そしてそれを看護師・医師に伝え共有すること」と山内さん。「そうしたことを継続してやっていくことが利用者の命を守り、良いケアにつながっていく」と話しました。
午後の講義は「パーソン・センタード・ケアから学ぶ 認知症への対応と理解」。講師の水野裕認知症介護研究・研修大府センター客員研究員は、愛知県一宮市の「いまいせ心療センター」副院長で精神科医でもある立場から、豊富な事例を提供。認知症ケアを根本から考える貴重な機会となりました。
その後は8グループに分かれてディスカッションを実施。1グループ7~8名の受講者が、「講義を聞いての感想」「他の受講者に聞いてみたいこと」などについて話し合いました。あるグループからは「利用者に寄り添うことの大切さは分かるが、自分の業務が遅れると他職員にも迷惑をかけるので、その兼ね合いが難しい」といった声が出ていました。
グループ発表の後、水野さんが全体を総括。「介護は人が人に関わる仕事だけに難しく、なかなか答えが出ないものも多い。しかし皆さんが“考えて悩む”ことは利用者の悩みに近づくことでもある。これからも切磋琢磨して臨んでほしい」と結びました。
認知症の人の声なき声を聴くために、いま求められていることとは…
水野 裕 認知症介護研究・研修大府センター客員研究員 いまいせ心療センター副院長
重度の認知症高齢者への対応は、意向が分からないだけにおざなりになりがちだ。しかし重い認知症であっても「~したい」「不快」「この人はイヤ」などといった思いはあるはず。そしてその思いは介護者が「分かろう」と努力しない限り見えてこない。
認知症の人は意思表示が難しいため、しばしばその意思が興奮や暴力といった「混乱」となって現われる。便秘があったり丁寧に洗髪してもらえなかったり…といったことが不機嫌につながることもある。身体を快適に保つことが精神状態に非常に影響を与えることを再度考えてみてほしい。
何でも自分でできる我々は意識すらしていないが、衣服の選択、起床から朝食までの流儀など、その人の「こだわり」を知ることも重要だ。それが満たされないためにイライラが増すこともある。
「急に椅子に座っている人を殴った」というのもよくあるケースだ。理由は「いつも自分が座っていた席に他の人が座っていたから」かもしれない。しかし理由を深く考えもせずに「暴力がある」「情緒不安定」と決めつけてしまっていないだろうか。
アクティビティも本人の心身の能力や関心とマッチしていなければ意味がない。どんなにテレビや雑誌を提供しても、その人に分からなければ退屈で「傾眠」となる。
一方、会話はできなくても、話しかけたり会話の輪の中に入れたりすることで、不安な行動がなくなる場合もある。「共にあること」へのニーズを満たしているからだろう。
認知症の人はすべてを忘れているわけではない。何かの拍子に「世話になるなあ」という言葉が出てきたり、思い出したりすることもある。だから「何も分からない」のではなく「分かっている」と思って対応する方がいい。「適当にあしらっている」と本当のニーズを知る機会を失う。そしてニーズを分かろうとしない態度をとることが、BPSD(行動障害)を招き、結果的には介護者を苦しめることにつながる。
いずれにしても認知症ケアは単純なものではない。認知症の人の意向を考えるには、その人が暮らしていた地域のこと、こだわり、身体状況の変化など、知識・経験・感性をフルに発揮して臨まなければならない。「一方的な提供」ではなく、当事者としっかり向き合い、ともに考え悩みながらの対応が何よりも求められる。
※パーソン・センタード・ケア
業務中心のケアではなく、認知症をもつ人を“人”として尊重し、その人の立場に立って理解し対応する認知症ケアの考え方。英国の故トム・キットウッドによって提唱された。