昨年11月7日(火)、「2017年度身体拘束・高齢者虐待を防ぐための職員研修」を大阪市中央区のドーンセンターで開催しました。研修では、日本高齢者虐待防止学会理事で大阪緑ヶ丘(老健)事務長の柴尾慶次さんの講義「拘束はなぜ、なくならないのか?~自由を奪わない介護に求められること~」と、施設からの実践報告がありました。参加者は介護職員・生活相談員など69名。紙面では実践報告の内容を紹介します。
4つの取り組みで体制の見直しや職員の意識改革図る
特別養護老人ホーム ベルファミリア介護主任 福永一雄さん
ベルファミリアは35年前に開設し、5年前に全室個室ユニット型施設へと新築移転した特養です(入居100名・ショート16名、平均要介護度は4・19)。
長年「身体拘束ゼロ」を続けてきましたが、職員の中には「不適切ケア」に気づかず、「虐待や身体拘束は自分たちとは無縁」という雰囲気もありました。そこで今年度、次の4点を課題とし、取り組みの充実や体制の見直しを図りました。
第1に実施したのが認知症ケアの勉強会です。「人としての視点」に立って考え対応しているかに重点を置いて実施。全職員が受講できるよう3回にわたって開催しましたが、何でも職員がしてしまうことで「利用者の自立を奪っている」「職員本位のケアになっている」と気づいた職員も多く、効果はあったと考えています。
第2が「ユニットの理念」の構築です。職員自身がめざすべきケアの方向性をきちんと打ち出す必要性を感じていたので取り組みました。全ユニット合同で「自分たちがしてほしいケア、してほしくないケア」をブレーン・ストーミング法によって抽出し、自分たちが実践すべきケアを明確にしていきました。「してほしくないケア」の話し合いでは不適切ケアも多数出され、自分たちの日頃のケアを振り返るよい機会となりました。
第3はフロア会議の体制の見直しです。月1回・1時間の会議は業務事項が多く、個別ケアに関する協議・検討時間が十分に取れていませんでした。そこで業務事項は会議1週間前までに担当者が内容をパソコンソフトに入力し、参加者はその内容を事前に確認・検討しておくことで時間を短縮。一方、個別ケアについては現状と課題を担当者が事前に入力し、会議で考え方や対応法を話し合い、評価は次月に回すことで協議時間を捻出。例えば、夜間妄想・混乱がある利用者のケースでは、「安易に眠剤を使用するのではなく、まずは入居前の生活の様子を家族から聴き取ったり、24時間シートを使って現在の生活の把握・見直しを検してはどうか」といった意見が出るなど、有益な協議・検討ができる場となりました。
第4に、家族の理解を深めるため、全体で開いていた年2回の家族会をユニット開催に変更。身体拘束のリスクや拘束しないための対応策等について説明する機会を持ちました。またフロアの季刊誌に、家族会での意見、苦情や事故の内容と対応を掲載。身体拘束防止についての家族の理解も増しました。
いずれにしても、施設には職員の研鑽と体制の見直しを図る柔軟な姿勢が常に求められます。そんな取り組みを続けていくことが、虐待を防ぐための組織作りにつながっていくのではないかと考えています。
職員が暴言。事実に向き合い、相互支援の必要性を痛感
特別養護老人ホーム なごみフロア長 上村 淳さん
なごみは2004年に開設。3ユニットある準ユニットの従来型施設です(入居30名・ショート5名、平均要介護度4・25)。夜勤は3ユニットを2名で担当していますが、そこで職員による暴言がありました。
17年5月の人事考課のための面談で、ある職員が「半年前の夜勤時、A職員が入居者Bさんに暴言を吐いていた」と報告。「Bさんの部屋のセンサーマットが反応し、ケアコールが鳴り続けていた。PHSをとると、Bさんが混乱している様子が伝わってきた。同時にその対応にあたっていたA職員が“落ちついて。ええ加減にして。ほんま殺すで〟と発言。そのため当該職員がBさんの居室に駆けつけ、ことなきを得た」と。ずっと伝えるべきか迷っていたそうです。施設ではセンサーマットが鳴ると職員のPHSにつながり通話可能状態となるため、一連のやり取りが別の場所でPHSをとった職員の耳にも入ったというわけです。
施設としてA職員に事実を確認。Bさんの件以外にも、引継ぎの際、他の職員に別の利用者について「死んだらいいのに」との発言が数回あったことも判明しました。背景には、①業務優先で利用者をコントロールしがちなこと、②経験6年目だがリーダーになれず不満があったこと等があったと思われます。
法人として大阪市に通報。心理的虐待として受理されました。Bさんとご家族に謝罪するとともに、法人ではA職員の働く環境にも課題があることを考慮し、一人になる時間帯のない通所介護に異動することで「人として、支援者として、一からやり直してみてはどうか」と提案。しかし、本人は固辞し6月末に退職となりました。
再発防止のため施設長が全職員に聴き取りを行い、他にもストレスを抱えている職員がいないか、今回と同じようなケースを他にも見聞きしたことはないかを確認。また全利用者に対しては主任が聴き取りを行いました。そして、改めて身体拘束・虐待防止研修を全職員に実施。毎月の身体拘束・虐待防止委員会では各ユニットより不適切ケア予備軍がないかを挙げ、迅速に解決へとつなげています。夜間混乱しやすいBさんに対してはユニット会議で支援内容を検討し、職員が統一した関わりを持つよう努めています。
今回の事件で痛感したのは、介護職員は利用者との関係が近いだけに「虐待する可能性は誰でも起こり得る」ということ」です。だからこそ、自分の心身の状態を常に客観視し、自分の気持ちを正直に周りの職員に伝えておくことが大切。働く仲間同士で話し合いの場をもち、言動で気になることがあれば、そっと手を差し伸べたり、さりげなく注意したり…。そんな勇気をもって仲間と関わることが、虐待を未然に防ぐことにつながるのだろうと感じています。