O―ネットでは11月12日(木)、大阪市中央区のドーンセンターで、介護職員研修『“介護施設ならでは”のターミナルケアを進めるために』を開催しました。福森潔寿光園施設長の基調講演に続き、博愛の園(特養)の草野恵さん・春日丘荘彩の家(地域密着型特養)の福井渉さん・ぶどうの家(グループホーム)の阪本菜津代さんの3人が、それぞれ自施設の取り組みを紹介。その後、福森施設長・桑野弘加寿苑施設長・福留千佳ライフサポート協会なごみ総合施設長が、看取り介護の経験を踏まえ、事前に受講者から寄せられた質問をもとに助言を行いました。参加者は、特養・グループホーム・有料老人ホームなどで働く介護職員・看護師・施設長など80 名。受付開始からほぼ1か月で早々と定員に達した今回の研修。看取り介護に寄せる受講者の皆さんの熱い思いがひしひしと伝わってきました。

事前質問をもとに意見交換を行う、施設長の皆さん。右から福留さん、桑野さん、福森さん。左端はコーディネーターの佐瀨さん。
基調講演 福祉モデルの看取りを構築するために「評価」と「経験の蓄積」が次につながる
福森 潔 寿光園施設長
人々が最期を迎える場所は、病院の80%に対し施設は5%程度。しかし重度の要介護状態の人が多いこと、利用者・家族の要望も増えていることから介護施設での看取りも最近は一般的になってきました。
施設の看取りで、まず大切なのが、施設・職員の心構え。医師を含めた全職員で十分話し合い、共通認識を持つことが必要です。次に大切なのは、家族との関わり方。事前に「施設で看取りを」との意向があっても実際にその時期になると動揺し悩む家族も多い。常に家族との対話に努め、迷っている家族に寄り添う姿勢が必要です。「看取り介護は家族のケアだ」とも言えるのです。
寿光園では措置時代より看取りを行ってきました。06年度の看取り介護加算創設に伴い、マニュアルや指針など体制を整備。加算が適用された看取り件数は06~14年度で50件、とくに10年度以降は件数が増加し、退所者のうち施設で看取った人の割合は半数に達しています。
当施設では看取りの取り組みを予測・実践・評価の順で進めています。「予測」とは、判断は難しいものの、対象となる利用者の状態について事前に職員間で認識を共有すること。一方、看取りを終えた後の「評価」では、職員がどう対応し感じたのか、振り返りの機会を持っています。家族にもしばらく経ってからアンケートを実施。これらの評価は非常に重要で、次にどうつなげていくのかを考える材料になり、その後の職員研修に活かしていくこともできます。看取りのケースはさまざまなだけに「経験の積み重ね」がより良い看取りにもつながっていきます。
ともあれ、看取り介護は特別なものではなく、日々の介護の延長線上にあるもの。良い介護が良い看取りにつながっていく。そして「福祉モデルの看取り」では、何よりも本人・家族の意向を反映することが重要です。例えば、家族や職員の話し声が聞こえる中で、安心して穏やかな死を迎えられるようにする。そんな看取りにするのが、介護施設の役割ではないかと思っています。

福森さん
助言と意見交換 多くの介護職員が抱える戸惑いに3人の施設長が助言
研修の最終プログラムでは、佐瀨美惠子桃山学院大学非常勤講師をコーディネーターに、事前質問の中で目立った項目について意見交換が行われました。
不安は「家族との関係づくり」や「夜間時の対応」
「看取り介護を始めるにあたって大切なことは」との質問に、福森さん・桑野さん・福留さんの3人は異口同音に「管理者が腹をくくること」と回答。「医療職との連携や、担当する介護職員を支える体制づくりが欠かせない。管理者の姿勢と関わりがものを言う」と話しました。
質問の中で最も多かったのは「家族との接し方や関係づくり」について。福森さんは「日頃から家族が施設に親しみやすい体制をつくっておくことがまず大切。看取り期ではさらに、家族がいつでも施設に連絡を取れるようオンコール体制を整え、不安に寄り添うようにしている」と話しました。福留さんは「家族の辛い思いに触れたとき、何か励ましを…と焦る必要はない。気持ちを受け止め、傾聴しよう」と伝えました。
「施設で最期を」と望む本人と家族の意向が異なることで戸惑うこともあるようです。
「対話できていた頃の本人の意向を家族に伝えるが、判断は家族に任せる。もちろん考えの変更も受容し支援する」。福森さんと福留さんはこう回答しました。
「夜間時の対応」も多かった質問の一つでした。「遅番の看護師が起こりうる状態について夜勤者に伝える。どんな場合はどこへ連絡するかを明示することで夜勤者の不安と負担を減らしている」と福森さん。桑野さんも「夕方の申し送りで伝えるとともに、家族か主任クラスの職員が利用者の居室にいるよう努めている」と話しました。「死亡時、職員がそばにいないこともありうると、事前に家族に説明している」と話すのは福留さん。「どんな状態のとき連絡するかについても事前に家族に尋ねる。“下顎呼吸になったら”というもあれば、“息を引き取ってからでいい”という家族もあります」

受講者同士の話し合い
いい仲間とのチームケアがよりよい看取りにつながる
看取りでは携わった職員のメンタルケアも欠かせません。「辛そうな職員には努めて声をかけるようにしている。初めての看取りのとき“自分は何もできず利用者が亡くなるのを待っているだけでは…”と泣いている職員がいた。思いを受けとめるとともに“あなたが話しかける声は聞こえているよ”と伝えた。感情を外に出すことも大事では」と福留さん。桑野さんは「お通夜でお別れをする職員もいる。そうすることで気持ちの切り替えにつながっているようだ」と伝えました。「初めて携わった職員には慰労を兼ねて飲みに誘ったりしている」と話すのは福森さん。「経験した職員が、次は初めての職員をサポートすることで自信もつき好循環が生まれる。いい仲間によるチームケアで看取り介護も良くなっていきます」
介護施設の看取りとは、家族や介護職・医療職がフラットな関係で、本人を囲み見守りながら進められるもの。「そこに“介護施設ならでは”の特徴と良さがある」。最後にコーディネーターの佐瀬さんはこう結びました。