O―ネットでは12月、市民連続講座『主体性をもって介護施設やサ高住で暮らすには』を大阪市中央区のドーンセンターで開きました。この講座は大阪市教育振興公社の「大阪市NPO・市民活動企画助成事業」として行われたもの。1日(火)・4(金)・8日(火)の3日間の開催で、延べ120人が受講しました。「主体性」という抽象的で難しいテーマでしたが、勉強になったと、参加者から好評でした。
1日目 介護を受けながら主体的に暮らすとは
講座の総論として、堀川世津子事務局長が担当しました。「主体性」とは、「“何をするのか”を含めて、自分で考えて判断し行動すること。さまざまな生活シーンで自ら選択・決定し、責任をもつということであり、自分らしさを発揮しながら生きるということでもある」と堀川さん。しかし、要介護状態にある利用者が共同生活の場である施設で、主体性を持ちながら暮らすのは難しいのが現状です。
「主体性を阻む要因には、社会通念、不安で依存的になりがちな利用者自身、ケアに影響する職員の価値観などがあるが、家族が利用者の主体性を制限している場合も多い。至れり尽くせりが良いと思っている家族も。家族自身が認識を変えることも必要です」
主体性を発揮するために施設に求められるのは、(1)利用者の過去や人柄をよく知り、できることを活かすこと、(2)社会と接点を持つ機会を設けるなど、少し先の未来をイメージできる働きかけを行うこと、(3)生活のさまざまな場面において自分で選択・決定できる機会を設けること、(4)居室など自分が支配できる空間があること。「どれも実施には手間暇かかるが、こうしたことがワクワク感を抱かせ、自ら取り組んでいこうとする動きにつながっていきます」
一方、利用者自らに望みたいのがケアカンファレンスへの参加です。「ケアプランの作成や見直しを家族や施設任せにしている人も多いが、カンファレンスは自分の意思をプランに反映させることができる貴重な場。認知症で少し意思疎通が難しくなったとしても参加を控える必要はない。家族もその点を十分に認識し、会議に同席してほしい。利用者の生活歴・人柄・こだわり・顕著な出来事など“人となり”を理解するのに役立つ情報を提供し、よりよいプランにしていくことが、利用者の主体性の発揮につながっていくと思う」と話しました。
2日目 サ高住の特徴と、そこで主体的に暮らすには
消費生活アドバイザーの櫛田キヌエさんが講演しました。15年10月末で全国に5700棟・18万戸以上あるサ高住。大阪は約2万戸と最多。戸数の約2割は関西に集中しています。櫛田さんはまずサ高住の特徴を説明(表参照)。「住まいと介護を分けているのがサ高住の最大の特徴。それだけに“自分の住まい”として意識でき、施設に比べて自由度は高いと言えます」
3つのサ高住を例に、暮らし方も提案。介護が必要な場合、訪問や通所の居宅サービスを利用しますが、契約は住まいを運営する事業者でも、外部の事業者でも構いません。時間制のオプショナルサービスを設けているところもあり、介護サービスの上限を超えた場合、このオプションを利用する方法もあります。その他クリニックやデイサービスセンターなどを併設したり、食事の提供や趣味の講座があるところも。いろいろと選択の余地のあることがサ高住の利点でもあります。
「自分の今後を長期的に見据え、どんな暮らし方をしたいのかをイメージし、それにあったサービスや設備があるところを選ぶことで、主体的に暮らすことも不可能ではない。どのように自分らしく暮らせるかは、自分自身にかかっている」と結びました。
サ高住(サービス付高齢者向け住宅)の特徴
(1)ハード面
● 原則として居宅の床面積は25㎡以上
● キッチン・浴室・洗面・トイレ・収納を備える
※キッチン・浴室は共用でも可。その場合居宅は18㎡以上
● バリアフリーであること
(2)ソフト面
● 安否確認(状況把握)と生活相談の提供【必須】
● 少なくとも日中は職員が常駐し、上記サービスにあたる
※夜間は緊急通報システムが整っている場合、必ずしも常駐しなくても可。夜間職員不在のサ高住は全体の26.9%(2014年3月末現在)。
(3)費用
基本月額12万円~16万円(家賃・共益費・水道光熱費・生活支援サービス費 ※食費・介護サービス費含まず)
3日目 特養の暮らしと、主体的に生きる人々
川上正子副代表理事が講師を務めました。最初に特養の概要を説明。その後、特養利用者の珠玉の言葉を集めたO―ネットの冊子『至言・名言介護施設で出会いました』から、利用者の言葉をピックアップし、その背景や介護と生活の様子に言及しました。例えば「入れてもろたん違う。わたしが入ってきたんや!」という利用者の言葉。入浴後、職員に車椅子を押してもらって部屋に戻ってきたとき、面会に訪れていた家族が「お風呂に入れてもろたんやねえ」と声をかけたのに対する元気な返答です。「特養では個別対応が増えているものの、“私”が主人公であり続けるのは難しいことだ。そうしたなかにあっても、自分を持ち続けている利用者の一言」と紹介しました。
「どろどろ食、いやや。家族が食べるのではなく、私が食べるのです」。これはミキサー食に対する利用者の切実な声です。「誤嚥を心配してミキサー食を家族が施設に依頼したようですが、主体は自分だという強烈なメッセージを投げかけています」
「脳梗塞でリハビリ病院にいたとき3つの誓いを立てた。自分でトイレに行く、車椅子への移乗は自分でする、衣服は自分で着替える、と。今も続けている」という男性利用者の言葉も紹介されました。「不自由な身体になったから何もできない、というわけではない。介助してもらうとラクかもしれないが、安易に委ねてしまえばどんどん依存的になる。“こうあり続けたい”と願い、踏ん張ることも自分を保つためには必要です」
日常の生活動作に常に介助が必要な人が多い特養ですが、利用者を尊重する施設の姿勢と、老いを受容し介助を受けつつも自分を見失わないことの大切さを、「至言・名言」の利用者たちは教えてくれます。