O―ネットでは、8月31日、大阪市中央区のドーンセンターで「利用者のQOLを高めるための適切な車椅子を考える職員研修」を開きました。この研修は日本社会福祉弘済会の助成を受けて開催したもの。施設とO―ネットの関係者でつくる職員研修実行委員会が企画・運営にあたりました。介護職員や機能訓練指導員など主に特養で働く50名が参加。真剣に講義に耳を傾けました。
劇や講義を通して問題提起を図る
研修では、まず劇団O―ネットが施設の車椅子利用者の様子やオンブズマン活動での車椅子に関する施設とのやり取りを劇仕立てで披露。問題提起も盛り込みながら講義への導入を図りました。
午前中の講義では福留千佳・ライフサポート協会なごみ施設長が「知っているようで知らない車椅子~考えてみよう、日常の中での車椅子ケア~」と題して講演。「在宅系サービスから特養の施設長として異動してきた3年前、まず驚いたのが1日の大半を車椅子で過ごす利用者の多さ。車椅子のままの食事や余暇活動が当たり前になっていた。車椅子のメンテナンスはできていないし、フットサポートに置いた利用者の足が震えていてもʻいつものこと”と疑問に思わず、そのままにしている怖さがあった。自分たちが現在持っている知識・技術だけだと、よりよいケアはできない。自分の施設も現在進行形の状態だが、ともに取り組みを進めていこう」と話し、外部の専門家から学ぶ大切さを伝えました。

午後の講義を担当した講師の森下さん

劇団O-ネット
午後は近鉄スマイルサプライ(株)スーパーバイザーの森下弘幸さんが講義「さまざまな車椅子とシーティングの実践例・工夫のポイント」を担当しました。
「身体構造上、ʻ座れない”高齢者はほとんどいない。なぜなら大半の人は、以前は椅子に座っていたから。ほんの少し手間をかけてʻうまく座る”サポートができれば本人の生活の質も向上するし、職員の食事や移乗介助も楽になります」
椅子に座ったとき、骨盤の坐骨結節という三角形の頂点のような部分で体を支えています。つまり「座る」という姿勢は「必ずしも安定した姿勢ではない」のです。加齢によって足腰の筋力が弱まったり、骨が変形したりすると、姿勢が崩れやすくなります。そして、こうした状態のまま車椅子に座っていると、褥瘡ができたり、車椅子からずり落ちたり、意欲がそがれたりすることが少なくありません。
座位を保持するには、椅子に深く腰かけ、腰の部分が椅子の背で支えられ、床にかかとがしっかりついて、股関節部、膝関節部、足関節部が90度に近い状態を保っていることが必要です(「90度ルールの座位姿勢」図参照)。この状態を念頭に置いた上で、たわみを取るクッションを座面に入れたり、背もたれや座面の左右にクッションをはさんだりして姿勢を保持し、適切な座位に近づけます。
「ただしʻ座る”ということは、あくまでも手段であり目的ではありません。正しい座位姿勢を利用者に押し付けるのではなく、ご飯を食べる、テレビを見るなど、ʻうまく座れたら何ができるか”を考えてサポートすることが大切です」
施設で利用できる車椅子レンタルの情報提供も
施設でよく使われている標準型車椅子の大きさは身長165㎝の男性の体形を基準にしたもの。小柄な高齢者には大きすぎる場合が多々あります。
「本来、車椅子はサイズ調整などができて、一人ひとりの身体状態に合ったものを利用するのが望ましい」と森下さん。現在、施設介護サービスの利用者には車椅子など福祉用具のレンタルが適用されていませんが、こうした課題に対し「独自のレンタルシステムを創設し、高齢者施設や病院を対象に、フィッテイング、貸与、メンテナンスまでを一貫して手掛ける事業者もある」という情報提供も行いました。
受講生の中には「O―ネットのホームページを見て研修があることを知り、静岡から駆けつけた」「森下先生が講師だった3月のO―ネットセミナーにも参加した。もう一度話を聞きたくて受講した」という人も。講義の終盤には、事前に寄せられた質問への回答タイムもあり、受講生にとって手ごたえは大きかったようです。

研修ではスウェーデン製フルモジュールタイプなどの車椅子の試乗機会も。質問する受講生も多くみられた。