事例総数251件、平均改善率55%。
「排泄」「食事」などから見えてくる重度化に対応した専門的な介護が必要
関西の特別養護老人ホーム(特養)を中心に、高齢者施設に入居している利用者から苦情・要望を聴き取って施設に伝え、介護サービスの向上につなげている「NPO法人・介護保険市民オンブズマン機構大阪(通称O-ネット)」。2000年の設立以来、専門研修を受けた市民が、オンブズマンとして介護現場を月1~2回訪問しています。
その基本スタイルは“告発型”ではなく“橋渡し役”。利用者の切実な声や、第三者としての気づきを施設に伝え、利用者のその人らしい暮らしをサポートしています。
そんなO-ネットの最新の活動をまとめたのが『2019度オンブズマン事例分析』です。2019年4月から1年近く (2020年3月は新型コロナウイルス感染症対策で活動休止)、約50名のオンブズマンが特養・介護付き有料老人ホーム・介護型ケアハウス・サ高住・グループホーム・養護老人ホームなど40施設で活動し、施設に伝えた事例総数251件を分析。主な事例をソフト面・ハード面ともに抜粋し、掲載しています。
ソフト面は施設生活や介護に関わる事柄で、排泄・食事・入浴・リハビリ・身だしなみなど14項目を挙げています。その中で件数が増えた項目は「排泄」「食事」。「排泄」では「尿道カテーテル」に関するものや、「食事」では「医療的な制限や誤嚥予防が必要な場合の対応」に関するものが目立ちました。要介護度の高い利用者に対する、医療施設とは異なる「“介護施設ならでは”の専門性」が施設に求められる現状がうかがわれます。
ハード面は生活環境に関する事柄で、居室と共用空間の2項目からなり、件数が大幅に減少しました。設備面での不具合を利用者から発信することは、重度化もあいまって年々難しくなっており、オンブズマンの観察や気づきの重要度が増しています。
高齢者施設の現状と課題を端的に示した本書は、施設介護に関心のある方はもちろん、施設関係者にとっても、参考資料として役立つ報告書です。