利用者からの発信が目立った「入浴」「楽しみ」「外出」「リハビリ」
改善率は63.8%と低め

2025年3月発行、A4判42ページ、500円
主な苦情要望事例
排泄/6 食事/8 入浴/12 楽しみ/14 外出/19
リハビリ/22 コミュニケーション/23
診察治療/26 車椅子・椅子/28
拘束/32 事故/35 身だしなみ/35
その他/36 居室/37 共用空間/39
コロナ禍においてオンブズマンの訪問を見合わせる施設が大半だったため、オンラインで利用者や職員の方々と面談を続けてきましたが、2023年5月に感染法上の新型コロナの扱いが5類となってからは、オンブズマンの受入れ施設も徐々に増え出し、34か所で訪問活動をすることができました。
今回の事例分析はそうした時期(2023年4月~24年9月)に集約した苦情要望事例です。
社会的にはコロナ前と変わらない日常が戻りましたが、高齢者の命を預かっている施設では、これまで同様、感染防止への気配りが必要な状況が続きました。
コロナの他、インフルエンザやノロウイルスなど他の感染症への注意も必要な中、家族の面会・ボランティアの導入・利用者の外出など、コロナ前の「日常」には「なかなか踏み出せない」というのが多くの施設の傾向でした。
介護職員の確保がますます厳しくなっていることも痛感しました。
とくに、特養では身体介助の必要な入居者が多いだけに、そうした介助に追われ、職員が利用者とゆっくりと会話を楽しみ、利用者に向き合う時間的余裕は極めて少なくなっているのが感じられました。
ただ、そうした中にあっても、少しでも利用者に非日常の楽しみを提供するため、祭りを復活させたり、外食に出かける機会を設けたりするなど、施設・職員の頑張りも随所で見られました。
オンブズマン活動においては、コロナ前のようにオンブズマンが居室やフロアを自由に回れるところもあれば、毎回フロアやユニットを限定して活動するところ、面談室で利用者1人ずつと面談するところなど、施設によってオンブズマンの受入れ方はさまざまでした。
そのため、苦情要望案件があっても、その後の対応が確認しにくく、時間を要したケースもあり、改善率は63.8%(164件)とコロナ前に比べると低い結果となりました(2017年度84%、2018年度89%)。
今回、特に印象的だったのは、「入浴」「楽しみ」「外出」「リハビリ」に関する要望や訴えが、すべて利用者自身から発せられていた点です。
要介護度の高い人が多い中で、オンブズマンが限られた機会に利用者と接し、その本音を引き出すことは容易なことではありません。
それでも利用者の思いをしっかりと聴き取ることができたのは、オンブズマンが一人ひとりに丁寧に向き合い、信頼関係を築いてきた結果と言えるでしょう。
また、家族との面会に制限がある施設も少なくないなか、職員とは異なる「利害関係のない立場」であるオンブズマンが話を聴くことで、利用者の「伝えたい」「聞いてほしい」といった潜在的な思いが自然と表れたのではないでしょうか。
オンブズマンの活動は、利用者の声を引き出すだけでなく、その思いを安心して表現できる機会を「保障する」役割も果たしているのです。